アニックグタール「ニュイエトワーレ オードトワレ」:森林、公園、犬
私が高3の時から、今年で9年間、実家でゴールデンレトリバーを飼っている。(めちゃくちゃ可愛い、ベリーキュート、天使と犬のハーフである、9年飽きることなく可愛いと言い続けている)
今は家を出てしまったので家族に任せているが、実家にいる頃は基本的に私が散歩をしていた。
もともとロングスリーパーだけれど、高校の時、人間関係の悩みでストレスがたまり休日ほぼ寝ている状態の私のために来たのが、可愛い可愛いゴールデンレトリバーの子犬だった。
犬は一年半で成犬になる。
ゴールデンレトリバーの中でもうちの子は大きく、体重は約40キロある。
雨の日はもちろん、雪の日も、台風の日も、風邪をひいていたって散歩には行かなければならない。
怠惰な私には疲れる大型犬の散歩は重荷だったけれども、それでも出かけてしまえば楽しいものだった。
家の近くには大きな公園があり、杉の木が林立していた。
冬、そこを通ると針葉樹林特有の清々しい香りがした。
そんな香りを嗅ぎながら、よく犬と話をしながら歩いた。
(一方的に私が音声にして話しかけているので、たまに気づかないうちに人とすれ違うとかなり恥ずかしい)
(犬は何も知らない顔をしてテクテクしていた)
誰より先に結婚報告をしたのも愛犬だった。
「おねえちゃん、結婚するかもしれないよ」
「寂しくなる?」
「ねぇ、聞いてる!!??!?」
(聞いてない)
愛犬はいま闘病中で、根治することのない病気と戦っている。
この世でなにより愛した子だから、死んでしまったらどうなるのか、まだわからない。
でも、まだ生きている。今は抗がん剤治療が終わり、元気そうだ。
マイエンジェル、マイサンシャイン。
長生きしてほしい。
………。
そんな犬との(ラブラブイチャイチャ)散歩の記憶をありありと思い出させてくれるのが、アニックグタールのニュイエトワーレだ。
肌に吹き付けた瞬間、鼻がシダーを捉える。やはり馴染みのある香りは認識しやすいのかもしれない。
一瞬遅れてミントやレモン、オレンジのトップノートをキャッチする。
冬の乾いた空気、静謐な冷たさ、清涼な杉の香り。
私の「散歩」の記憶を鮮やかに描き出すトップノートが始まる。
このニュイエトワーレのトップノートほど素晴らしいものって、世の中に「愛」くらいしかないんじゃないの…と思う。(思わない)
アニックグタールの香りはトップもミドルもラストさえあっという間に駆け抜ける。
柑橘類が通り過ぎると、爽やかだけれど厚みのある木を思わせるミドルがやってくる。
優しい、ふわりと遠くから香ってくる木の香り。ほんの少し混ざるスパイシーさが冬という季節を際立たせる。
もし重めのウッディなら下を向いて思考に耽ってしまう気がする。
でもこの香りはニュイエトワーレ、星降る夜。
この香りの軽さは、夜空を見上げさせる。
杉林の中、星空を見上げる。
さまざまな色をした感情を抱きながら。
プッシュした瞬間から肌になじんでふっと消えてゆくまで、私の記憶を呼び覚まし続ける、星空の下の風景の幻影を見せ続ける、そんな魔力のある香りである。
香りは記憶の栞になることがしばしばあるけれど、このニュイエトワーレは記憶の再生機のような…なにかトリガーになる存在だ。
[余談]
私の肌だとEDTでもEDPでも香りの変化はあまりみられなかった。トップにばかり意識が向くのも理由かもしれない。
でもこのEDTを家族につけたら私の肌の上で再生される優しいウッディとは全く異なるミドルノートになったので、きっとEDTと EDPでも大きく変わる人は多いはず。スパイシーさがどこまででるか、に大きく左右されるのかもしれない。
アニックはものすごく人(肌質)を選ぶ香りかもしれない。